第16回日本心不全学会学術集会

ご挨拶

下川 宏明  
 
下川 宏明
東北大学大学院医学系研究科循環器内科学教授
 第16回日本心不全学会学術集会(2012)を担当させていただくに当たり、ご挨拶をさせていただきます。
 わが国は、急速な高齢化と生活の欧米化により、心臓病が増加しています。心不全はあらゆる心臓病の末期像であり、現在、心不全患者の急増が、あまり社会に認識されず、また、医療関係者にさえその認識が十分ではないまま、進行している現状があります。
 例えば、宮城県では、宮城県心筋梗塞対策協議会の活動の一環として、全県下で発生する急性心筋梗塞症例をほぼ全例前向きに登録する事業を30年以上にわたって行ってきていますが、急性心筋梗塞の発生率(年齢補正後)は、この30年間で約3.5倍に増加しています。一方、医療の進歩により、院内死亡率は、男性が約20%から約5%へ、女性が約25%から約10%と大幅に低下しています。この結果、虚血性の慢性心不全患者が激増していることが、我々の東北慢性心不全協議会の登録研究でも明らかにされています。したがって、学術集会の会長に指名していただいた時、学術集会のメインテーマとして、迷わず、「心不全パンデミックにいかに対処するか」に決めて、そのテーマに沿ったプログラム内容を考えておりました。
 その矢先、東日本大震災が発生しました。被災地の中心になった東北大学病院の私達も全力で医療復興に当たりましたが、そこで目にしたものは、心不全患者の明らかな増加でした。この傾向は、第15回日本心不全学会学術集会(2011)の鄭会長が企画していただいた緊急シンポジウムでも討議し、岩手県・福島県でも共通して認められる増加があることが確認されました。大震災における心血管病の増加は、急性心筋梗塞・肺塞栓症・タコツボ心筋症・重症不整脈などが報告されていますが、心不全の増加はこれまで報告がありません。今回の東日本大震災で心不全が増加した原因を明らかにすることは、今後の災害医療にも大きく貢献する重要なテーマだと思われます。そこで、学会としての復興の意味も込めて、メインテーマを「東日本大震災からの復興をめざして」に変更し、「心不全パンデミックにいかに対処するか」をサブテーマとさせていただきました。
 東日本大震災により心不全が増加している現状を被災地で目の当たりにしている自分が、今回の日本心不全学会学術集会を担当させていただくことに、何かしらの縁を感じております。
 わが国における心不全医療・医学の現状と今後の展開について、会員の皆様に満足していただける内容にしたいと思っております。多数の皆様が仙台にお越しいただき、復興を手助けいただけることを願っております。どうぞ、宜しくお願い申し上げます。