肺高血圧症と遺伝子・血栓

 肺高血圧症は平均肺動脈圧が25mmHg以上となり、最終的には右心不全を引き起こす致死的な疾患です。その病因は多岐にわたりますが、代表的なものでは肺動脈血管リモデリングや血栓形成、慢性炎症、肺疾患や心疾患があります。(図1) この中で、特に肺動脈リモデリングに関してはBMPR2などの遺伝子変異が関与していると報告されております。一方で、血栓形成に関しては遺伝子変異が関与しているかどうかは不明のままでした。


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 我々は肺動脈内に器質化血栓が生じ、肺高血圧症を来す慢性血栓塞栓性肺高血圧症に関して、これまで病因を様々な観点から検討してきました。(図2) 実際の慢性血栓塞栓性肺高血圧症の患者様の、血管病変を画像化することに成功しております。肺動脈造影では血栓閉塞が認められますが、血管内の病変を実際見ると器質化血栓がメッシュワーク様に認められることがわかりました。さらに、患者様の血漿や血小板を詳しく検査すると、血栓形成を助長する血小板が活性化していること、血栓を溶かす線溶系がThrombin activatable fibrinolysis inhibitor(TAFI)により抑制されていることを示しました。(図2)


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 さらに、慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者の網羅的な遺伝子解析(エクソーム解析)を施行することで、上記で認められた線溶能の低下に遺伝子背景が関与しないかを検討しています。(図3) まだ、解析中ではありますが、現時点で線溶能を抑制する3つの一塩基変異多型(図の黄色で示したもの)が認められました。第V因子という血栓の安定化に寄与するVariant、TAFIの抗原量を増加するVariant、TAFIを活性化するVariantが認められました。以上から、患者様の遺伝子背景が肺高血圧症における血栓形成に関与している可能性を示してきました。今後はエクソーム解析の情報をさらに検討し、さらなる研究へと発展させていきます。


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