ブタ実験・イメージング研究

ブタ冠動脈モデル

 ブタは実験動物の中でも大きく、特に冠動脈の解剖はヒトのそれと酷似していることから、様々な治療デバイスの前臨床研究に用いられてきました。東北大学循環器内科は、高性能の血管撮影装置に始まり、虚血性心疾患や不整脈の日常診療で用いられる様々な診断機器を、ブタ実験専用のものとして現有しております。(図1) 例えば、血管内超音波(intravascular ultrasound, IVUS)や光干渉断層イメージング(optical coherence tomography, OCT)をブタ生体に対して行うことで、in vivoの画像データをex vivoの組織標本と照合することができます。当科はこれまでステントを留置した後のブタ冠動脈の構造的・機能的リモデリングに注目した多くの基礎研究を行い、世界に発信してきました。また音波治療のような先進開発研究に、ブタモデルを活用してきました。

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冠動脈疾患における血管炎症の関与 -Outside-in theory-

 冠動脈疾患の成因として、血管内皮機能障害を発端とするInside-outの機序がよく知られています。同時に、外膜の血管炎症が内膜側の動脈硬化の進展に寄与するという、Outside-inの機序が提唱されています。2017年以降、冠動脈疾患に対する抗炎症治療の有用性が立て続けに報告され、血管炎症に対する注目が高まってきました。当科は以前より、血管外膜側に存在する血管栄養血管 vasa vasorum、血管周囲脂肪 perivascular adipose tissue (PVAT)、炎症細胞・サイトカイン、自律神経、リンパ管といった組織に着目した研究を展開し、外膜組織が相互に関連しながら冠動脈病変の形成に寄与していることを、報告してきました。(図2) 例えば、vasa vasorumは導管として炎症細胞を外膜(PVAT)から内膜へ運び込み、血管炎症を増強させます。自律神経は神経成長因子を介してvasa vasorumの増生を促します。リンパ管のもつ炎症ドレナージ機能が破綻すると、マクロファージが局所に停滞して血管炎症が遷延化し、慢性炎症に繋がります。外膜に直達する治療方法の開発にも取り組み、例えばアブレーションカテーテルを用いて腎動脈周囲交感神経除神経を施すと、腎-脳-心臓連関を介して、外膜のvasa vasorumと自律神経の増生が抑制され、結果的に血管炎症が抑制されることを見出しました。現在、リンパ管ドレナージ機能を改善させる治療法の開発にも取り組んでいます。

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血管炎症の病態探索のためのイメージング開発研究

 ブタ冠動脈モデルを用いて、光干渉断層イメージングOCTがvasa vasorumの生体内画像評価に有用であること、18FDG-PETイメージングがPVATの生体内定量評価に有用であることを見出しました。これらの研究成果は臨床研究に発展し、ヒト生体内における血管炎症の意義 -outside-in- の解明に繋がりました(図2)。現在は、冠動脈プラークのコレステロール、カルシウム、尿酸塩といった結晶が惹起する血管炎症に注目し、全く新しいイメージング開発研究を行っています。血液マーカーでは把握できない結晶の動態を可視化することで、これまでとは異なる治療アプローチの提案につながることが期待されます。