皮下植込み型除細動器(S-ICD)

皮下植込み型除細動器(Subcutaneous implantable cardioverter defibrillator: S-ICD)
について

 心疾患の種類にかかわらず致死的頻脈性不整脈による心臓突然死を予防し、生命予後を改善する治療法として、植込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator: ICD)の有効性が示されており、植込み数は増加しております。しかしながら、従来の経静脈リードを用いたICDには、リード挿入にともなう手術中の合併症(気胸、心タンポナーデなど)、経年的に出現するリード損傷、デバイスに関連した感染症などの問題点もございます。この問題を解決するべく開発されたのがS-ICDであり、リードは胸骨近傍の皮下、本体は左側胸部の前鋸筋と広背筋の間に植込まれる完全皮下植込み型のシステムです。(図1) リードに装着されている2つの電極と本体の3点で記録される3つの誘導から感知する心電図を選択し、致死性不整脈発生時にはリードと本体間で電気的除細動を行います。(図2) S-ICDは、若年者、易感染性の患者、経静脈デバイス抜去後の患者、先天性心疾患術後などの静脈アクセスがない症例に適していると考えられます。一方,ペーシング機能がないため、徐脈性不整脈症例、両心室ペーシングが必要な低心機能症例、抗頻拍ペーシングで停止可能な心室頻拍を有する患者には適しておらず、適切な症例を選択し使用する必要があります。

図1.

s-icd1

図2.

s-icd2

当科での使用経験

 当科では、2016年3月から2021年5月現在まで、66件の植込み経験を有しております。疾患の内訳(図3)は、S-ICDの特徴を生かすように、比較的若年の心室細動蘇生例(ブルガダ症候群、冠攣縮性狭心症、特発性心室細動など)に対する二次予防目的での植込みが多く認められます。また、重症心不全症例が多いこともあり、器質的心疾患による低左心機能症例に対する一次予防目的での植込みも施行しております。経静脈ICDの不具合(リード不全、デバイス感染)によるS-ICDへの変更症例も経験しております。

図3.

s-icd3