心房中隔欠損症/卵円孔に対する経カテーテル閉鎖術

心房中隔欠損症(ASD)とは

心房中隔欠損症(ASD)は、心臓の中の右房と左房の間にある心房中隔に欠損孔がある先天性の心臓病です。従来の外科手術は胸と心臓を開き、人工心肺装置をつける必要もあり、体への負担が多少あり、約3週間の入院が必要です。一方、2006年から保険適用となったカテーテル治療は、足の付け根からカテーテルを入れ、心臓を止めることなく、ニッケルとチタンの合金でできた栓で穴をふさぎます。傷口は小さく、1週間程度で退院し、すぐに日常生活が送る事が出来ます。

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心房中隔欠損症(ASD)のカテーテル治療

2006年アンプラッツァー閉鎖栓(r)が登場して以降日本でASDに対するカテーテル治療数は年々増加してきています。現状当科では、事前にASDの位置や大きさ等を調べて、カテーテル治療の適応があれば低侵襲であるカテーテル治療をまず検討します。カテーテル治療が施行困難な状況(欠損孔の位置が心房中隔の端の方にある、大きさが38mmを超えるぐらい大きいなど)があれば、外科手術をお願いする事を検討します。また、カテーテル治療出来る範囲も2016年にフィギュラ・フレックスII閉鎖栓(r)という新しいデバイスが登場して以降、拡大してきています。従来、心房中隔の上の方、つまり大動脈側のrim(辺縁)が少ない場合、カテーテル治療による合併症のリスクを考慮し、外科手術になる事がありましたが、フィギュラ・フレックスII閉鎖栓(r)の構造的特徴からその課題はほぼ克服されたと言っていい状況となっています。 一方で、先天的な病気ながら、高齢になってから発見されるケースも少なくありません。高齢者では、生活習慣病(高血圧や糖尿病など)、動脈硬化、心不全、不整脈、肺高血圧症、その他の併存疾患の合併が多くなり、若年者と比較して管理に注意が必要となります。そのような高齢者や肺高血圧症を合併した患者様でも比較的低侵襲かつ安全に治療できるのが、カテーテル治療のメリットの一つと考えます。一般的に最大径10 mm以上の心房中隔欠損症はカテーテルによる治療適応となる場合が多いです。径が5 mm以下といった小さい欠損孔の場合でも、奇異性塞栓症(足などに出来た血栓が心房の欠損孔を通過して脳などの全身に飛んでいく病態)を発症した場合などに、治療適応であると考えられています。

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心房中隔欠損症(ASD)閉鎖用デバイス2種と、それを用いた閉鎖術の模式図


卵円孔開存症(PFO)のカテーテル治療

最大径10 mm以上の心房中隔欠損症(ASD)は、心不全や不整脈の原因となり得るためカテーテルによる治療適応となる場合が多いです。ただ、径3 mmや5 mmといった小さい心房中隔欠損症の場合でも、奇異性塞栓症(足などに出来た血栓は、通常は肺に飛んでいく所ですが、心房の欠損孔を通過してしまい、脳などの全身に飛んでいく病態)を発症した場合などに、治療適応であると考えられています。しかしながら、これまで卵円孔開存症(PFO)を介する奇異性脳塞栓症の場合には、カテーテル治療はあまり推奨されてきませんでした。そんな中、最近卵円孔開存症を介する奇異性脳塞栓症に関する新しい知見(エビデンス)が出て、再び注目されています。卵円孔開存症は、通常出生後に心房の一次中隔と二次中隔が癒着する事により閉鎖しますが、癒着が不完全な場合は成人期以降にも開存する事があるとされています。健常人でもおよそ20~25%の人(4~5人に一人程度)に卵円孔開存症を認めるとされています。通常卵円孔開存症があっても無症状で治療を要する事はありませんが、卵円孔の形態や、腹圧のかかる動作を行った場合、その他の要因が加わった場合に卵円孔を介した右-左シャント(右心房から左心房へ)が生じる可能性があり、その場合奇異性脳塞栓症の原因となり得るとされています。2017年に北米での無作為化大規模臨床試験で、従来の薬物療法と比較して卵円孔開存症に対するカテーテル閉鎖術の脳梗塞再発予防効果が示されました。この結果を受けて、アメリカでは卵円孔開存症閉鎖用のデバイスが承認され、使用されています。日本でも既に保険収載され、2019年12月より認定施設で使用可能となっており、東北大学もその治療施設として認められています。実際のカテーテル治療は、心房中隔欠損症の場合とほぼ同様で、傷口は小さく、1週間程度の入院で済み、すぐに日常生活が送る事が出来ます。 最後に、このような心房中隔欠損症や卵円孔開存症を介する奇異性脳塞栓症を診療するには、脳卒中専門医との連携が重要となります。最近日本脳卒中学会、日本循環器学会、日本心血管インターベンション治療学会の3学会合同で示された「潜因性脳梗塞に対する経皮的卵円孔閉鎖術の手引き」にも、ブレインハートチーム(brain-heart team)の体制確立が求められています。

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卵円孔開存症(PFO)を介する奇異性脳塞栓症と、その閉鎖用のデバイスの模式図