経皮的僧帽弁クリップ術(MitraClipTM治療)

経皮的僧帽弁クリップ術とは

 経皮的僧帽弁クリップ術とは、MitraClipTM(マイトラクリップ)を用いてカテーテルで行う僧帽弁閉鎖不全症に対する治療です。足の付け根の静脈に挿入したカテーテルから、長さ15mm前後のクリップを心臓にもちこみ、僧帽弁をクリップでつまんで逆流を軽減させる治療法です。従来の開胸・開心術と比較して、胸骨切開、心臓停止といった特殊な操作を行う必要がなく、低侵襲な治療法であり、術後の回復も早い点が特徴です。この方法により、これまでは手術が困難であった高齢の患者様や複数の疾患を有しており手術がハイリスクである患者様なども治療が可能となりました。当施設では2022年7月から経皮的僧帽弁クリップ術が開始されております。


< MitraClipTM(マイトラクリップ)>

MitraClip<sup>TM</sup>

【参考ページ】(外部リンク:アボット社)

→ 僧帽弁閉鎖不全症治療 修復術を知ろう

僧帽弁閉鎖不全症とは

 心臓は血液を全身に送るポンプの役割をしており、4つの部屋(左右の心房・心室)に分かれています。各部屋の出口に弁と呼ばれる扉があり、そのうちの一つが僧帽弁です。僧帽弁は肺で酸素を受け取った血液が戻ってくる左心房と、全身に血液を送り出す左心室の間にあり、送り出した血液が左心房へ戻らないよう心臓の動きに合わせて開いたり閉じたりしていますが、何らかの原因で僧帽弁がうまく閉じなることで、血液が左心室から左心房に逆流してしまい、全身へうまく血液を送りだせなくなる病気が僧帽弁閉鎖不全症です。75歳以上の高齢者のおよそ10人に1人が、中等度から高度の僧帽弁閉鎖不全症を有していると言われています。


< 心臓の解剖 >

心臓の解剖

僧帽弁閉鎖不全の種類と診断

 僧帽弁逆流症 (MR) は大きく分けて器質性(一次性)MRと機能性 (二次性) MRの2種類があります。


・器質性:弁の変性や支持組織(腱索、乳頭筋)の断裂によって弁の接合にずれが生じたもの


・機能性:左心室、左心房の機能低下や拡大によって弁が外側に引っ張られることでずれが生じたもの


診断は心臓超音波検査(心エコー検査)によって行われます。主に、体表面から行う経胸壁心エコー検査で行いますが、詳細に調べるために超音波の探触子を食道内に入れて、心臓の裏側から観察を行う経食道心エコー検査も行うこともあります。


器質性と機能性MR


僧帽弁閉鎖不全症の症状

 僧帽弁閉鎖不全症が進行すると、労作時の息切れや動悸、倦怠感、むくみといった心不全の症状が現れます。さらに進行すると呼吸苦で横になれないといった症状を認めるようになり、最悪の場合死に至る恐れがあります。世界での患者数が400万人と推定される心臓弁膜症の中で最も多い疾患の一つです。


経皮的僧帽弁クリップ術の実際

 治療は全身麻酔下で行い、経食道心エコー図検査で心臓や弁の状態を確認しながら進めます。足の付根の静脈 (大腿静脈) からカテーテルを右心房まで挿入した後に、専用の針で右心房と左心房の間にある壁 (心房中隔) に穴をあけてカテーテルを左心房まで進めます。カテーテルの先端についたクリップを僧帽弁の逆流部位に持ち込み、クリップでつかみます。逆流が減っていることを確認してクリップを留置します。治療時間は3時間ほどで、合併症がなければ10日程度で退院が可能です。


経皮的僧帽弁クリップ術

当院の特徴

 一人一人の患者様にとって最善の治療を行うために、循環器内科医師だけでなく心臓血管外科医師、麻酔科医師、放射線技師、臨床工学士、看護師など多職種で情報を共有し、ハートチームとして診療にあたっております。手術後には自宅での生活がスムーズに行えるよう、リハビリを十分に行ってから退院いただいております。必要であれば自宅近くの連携病院で引き続きリハビリを継続いただくことも可能です。栄養士や薬剤師も介入し、栄養面でのサポートや薬の飲み方などの指導を行っております。さらに、人工弁への感染予防目的に口腔内の衛生面についても歯科治療や通院など行っていただいております。退院後はかかりつけの医院あるいは病院に通院いただきながら、かかりつけ医と連携し当院でも定期的に診察を行っています。


※画像はすべてアボット社提供